東京地方裁判所 昭和31年(行)5号 判決 1959年5月27日
原告 山岸金吾
被告 杉並税務署長
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実
当事者双方の申立及び主張は別紙のとおりである。
(立証省略)
理由
一、原告の主張第一項の事実は当事者間に争がない。
二、そこで被告の更正処分が違法かどうか判断する。
(一) 昭和二十九年度分の原告の所得額についての判断
(1) 資産増について(昭和二十九年度における)
(イ) 機械装置及び預金の額が二六〇、九九八円であることは当事者間に争がない。
(ロ) 生計費について
成立につき争のない乙第一号証によると、昭和二十九年度における東京都の一世帯の一人当り年間平均消費支出額は六四、一五二円であることが認められ、証人吉久保恒之助の証言及び成立につき争のない山乙第七号証の一ないし三、証人神保礼司の証言により真正に成立したと認める山乙第八号証によると右年度において原告及びその家族の生活状態は東京都における通常の世帯の生活と同程度であつたと認められるから、右年度における原告の生計費支出額は前記一人当りの年間平均消費支出額六四、一五二円に当事者間に争のない原告の家族数七を乗じて算出した四四九、〇六四円と認めるのが相当であり、右認定に反する原告本人尋問の結果は措信できず、他に右認定を左右するに足る証拠はない。
(ハ) 公租公課の納付額が一四、六八〇円であることは当事者間に争がない。
そうすると昭和二十九年度において原告には右(イ)、(ロ)、(ハ)に相応する計七二四、七四二円の資産の増加があつたものといわなければならない。
(2) 負債について
証人渡辺勇の証言により真正に成立したと認める山乙第二、第三、第五号証によると昭和二十九年度において原告は、新たに第一相互銀行から五〇、〇〇〇円東京相互録行から三〇、〇〇〇円を借入れ、さらに株式会社アサヒ製作所から洗濯機を買入れその未払代金が七八、〇〇〇円あつたことが認められる。原告は右年度における原告の負債は二一八、二〇〇円であると主張し、原告本人尋問において右主張にそうような供述をしているけれども前記山乙第二、第三第五号証及び証人渡辺勇の証言により真正に成立したと認める山乙第四号証と比較して措信できず、他に前記認定を左右するに足る証拠はないから、右年度における原告の負債は前記借入金及び未払代金の合計一五八、〇〇〇円と認めるのが相当である。
(3) そうすると昭和二十九年度における原告の所得額は右資産増から負債を控除した五六六、七四二円と推認するのが相当であり、右認定を左右するに足る証拠はない。
(二) そうすると右の範囲内で原告の所得を三四三、〇〇〇円としてなした被告の更正処分は結局相当であつて違法でないといわなければならない。
三、よつて原告の本訴請求は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 地京武人 石井玄 越山安久)
(別紙)
第一、原告の申立
一、被告杉並税務署長が昭和三〇年五月七日原告山岸金吾に対してなした昭和二九年度分の所得税の総所得金額を三四三、〇〇〇円と更正した処分のうち二二〇、〇〇〇円を超過する部分はこれを取消す。
二、訴訟費用は被告の負担とする
との判決を求める。
第二、被告の申立
原告の請求はこれを棄却する。
との判決を求める。
第三、原告の主張
一、原告は昭和二九年度分の所得税につき次表のように確定申告したところ杉並税務署長は次表のように更正しこれを原告に通知した。原告は右処分につき杉並税務署長に対し次表のように再調査の請求をしたところ杉並税務署長は次表のように決定して原告に通知した。原告は右処分につき東京国税局長に対し次表のように審査請求をしたところ東京国税局長は次表のように決定して原告に通知した。
確定申告年月日
三〇、三、一二
確定申告金額
二二〇、〇〇〇
更正年月日
三〇、五、四
更正金額
三四〇、〇〇〇
更正通知受領年月日
三〇、五、五
再調査請求年月日
三〇、六、三
再調査決定年月日
三〇、七、一
再調査決定金額
棄却(三四三、〇〇〇)
再調査決定受領年月日
三〇、七、二
審査請求年月日
三〇、七、一一
審査決定年月日
三〇、一一、二九
審査決定金額
棄却(三四三、〇〇〇)
審査決定受領年月日
三〇、一二、一
二、しかしながら被告の処分のうち原告の申立額を超過する部分は違法であるから、原告は被告杉並税務署長の更正処分の取消を求めるため本訴に及んだ。
第四、被告の主張
一、原告の主張のうち、第一項は認め、第二項は争う。
二、被告が原告に対してなした課税の根拠は次のとおりである。
原告はクリーニング業を営む者であるが被告の調査に際し原告は店内控帳一冊及び出前帳二冊を提出されたので内容を精査したところ不明確な点が多く本人も総水揚高(収入金)の記帳が一割ないし二割を洩れていることを申立たから帳簿書類を措信することができず、他に原告の所得金額につきその収支関係を明確にする帳簿、証ひよう、書類がないのでやむなく資産増減の方法によつて原告の所得を推計した。
(1) 資産増七二四、七四二円
(イ) 機械装置及び予金 二六〇、九九八円
(ロ) 生計費 四四九、〇六四円
総理府統計局の調査にかかる昭和二九年の東京都実態生計費一人当り年間六四、一五二円に原告の家族人員七名を乗じて算出した
(ハ) 公租公課 一四、六八〇円
(2) 負債 一五八、〇〇〇円
科目
期首(二九、一、一)
期末(二九、一二、三一)
差引残額
備考
借入金
五〇、〇〇〇
一〇〇、〇〇〇
五〇、〇〇〇
第一相互銀行
〃
―
三〇、〇〇〇
三〇、〇〇〇
東京相互銀行
未払金
七八、〇〇〇
七八、〇〇〇
洗濯機買入先
株式会社アサヒ製作所
計
五〇、〇〇〇
二〇八、〇〇〇
一五八、〇〇〇
よつて資産増七二四、七四二円より負債一五八、〇〇〇円を控除した五六六、七四二円の範囲内で原告の所得を三四三、〇〇〇円とした被告の処分は適法である。
第五、被告の主張に対する原告の答弁及び主張
(一) 前文の部分は争う。
(二) 資産増は争う、資産増は四三八、二〇〇円である。
(1) 機械装置及び預金は認める。
(2) 生活費は争う。但し原告の家族数が七人であることは認める。
原告の生活費は一六二、五二二円である。
(3) 公租公課は認める。
(三) 負債は争う。原告の負債は二一八、二〇〇円である。
科目
期首(二九、一、一)
期末(二九、一二、三一)
差引残額
備考
借入金
五〇、〇〇〇
一五〇、〇〇〇
一〇〇、〇〇〇
第一相互銀行
〃
六〇、〇〇〇
一〇、〇〇〇
△五〇、〇〇〇(減)
東京相互銀行
〃
―
六八、二〇〇
六八、二〇〇
大同信用金庫定期積立金
未払金
―
一〇〇、〇〇〇
一〇〇、〇〇〇
アサヒ製作所
計
一〇〇、〇〇〇
三二八、〇〇〇
二一八、二〇〇
したがつて原告の所得は二十二万円である。